桃源郷には成らなかった
いくら冬の苦手なわたしも、よく晴れた日の清涼感は好ましく思う。
窓を開けたら入り込むおひさまの光や風に、ああ今日は「寒い」のではなく「涼しい」のだなと感じた。
最近は寒さに震えることが多かったから、凍えずにいられる朝に嬉しくなりコンビニまで散歩をした。
わたしは大人なので肉まんとあんまんを両方買うことができる。子供の頃に憧れていた交互に食べるやつをやるんだ! そう思いながらふたつの温もりを抱えつつ歩いていると、とんでもなく背の高い花と遭遇した。
びっくりして立ち止まったものだが、たしか去年もこの道でこの花と邂逅を果たしている。
記憶から引き出してまず、夢じゃなかったんだ、と思った。
夢見心地の記録はこちらに綴られている。
とにかく去年のわたしはその花の異質さと美しさに驚き、見惚れ、その幻想的な感覚をたいせつにしたいあまりその道を通るのをやめていた。
ただ、はっきりとした思考で観測してしまえば、それはもう"現実"になってしまう。
わたしは大人なので手元にあるタブレットで花の名称を調べることができる。
11月のガーデニングにオススメの花で検索をかけたら、それはすぐにヒットした。皇帝ダリア。なるほどその名を冠するに相応しいと思った。それほどの存在感だった。
けれどもう桃源郷にはできなかった。蝶は飛んでいない。
現実を生きようと、そう云われた心地でいる。