boyaki

一介のオタクが感傷に浸る為のblog

散歩

熱を出した。といっても、3ヶ月前の話である。医者の診断によるとインフルエンザであった。そもそも熱すら滅多に上がらないわたしは当然狼狽して、こんなの子供のとき以来ではないかと思ったものだった。

勝手が分からないながらも休養をとり順長に回復していったわたしは、せっかくだからだの何だの言って、その感覚をつぶさに覚えておこうと決めていた。そうして記録を取っている。これはただの性である。

 

閑話休題。熱も落ちついて外出できるようになった頃、のんびりと歩いてコンビニに向かった。ずっとゼリーや病人食のようなものを食べていたわたしは、そろそろ普通の食事がしたいと思ったのだ。

ひとりで引きこもり人と会話をしなかったせいだろうか、外に出なかったせいだろうか。いつも歩いていた道がなんだか不思議な景色に見えていた。馴染み深いようでいて、どこか違うような。──後から考えてみれば、その頃ずっとバタバタしていたのだから気づかないうちに景色が変わるのも当然なのだけれど、当時のわたしは熱の後遺症なんじゃないかと本気で思っていた。

慣れ親しんだ道をきょろきょろとしながら、些細を観察して歩く。道の感じだとか、他所様の庭だとか、空の色だとか。とりわけ植物というのは分かり易い。知らない草花がたくさんあるなとぼんやり思っていたところで、わたしはそれに出くわした。

ずいぶんと背の高い花だった。

花、だったと思う。既に記憶が朧げになっていて花の形状も色さえも思い出せないのだが、どうにも異質な植物だった。二階建ての庭に植えられていたそれが、屋根に届くのではないかというくらいに伸びていて。先のほうにいくつかの花が密集して咲き誇り、風でゆらゆらと揺れていた。冬に差し掛かる季節だというのに春を感じさせるようなそれは目を惹いて、うっかり立ち尽くしてしまったものだ。そのうちひらひらと蝶が舞いはじめ、こんな、今、肌寒いというくらいなのに、などと困惑したことを覚えている。

 

たぶん詳しいひとからしたら、この特徴だけで何であるのか分かるんだろうな、と思う。けれどわたしは聞いていないし、調べてもいない。

あの瞬間、桃源郷みたいだ、などと思ってしまった記憶を。そのまま桃源郷にしてしまいたかったのだ。